ビットコインや仮想通貨のニュースが日々賑わっているいる中、投資あるいは投機的な価値を見出している人は多いものの、その本質的な価値への話題はまだ下火といってもいいだろう。
この記事では、ビットコインの基盤となるブロックチェーン技術を用いた地方自治体が発行する仮想通貨(電子通貨)のあり方について考えてみる。仮想通貨の本質的な価値の1つであると、個人的には思っていることだ。
ICO(Initial Coin Offering)ってなに?
そもそも「ICOとは何か?」。まずはそこから解説していこう。
ICOは、Initial Coin Offering の略で、日本語にすると「新規(仮想)通貨公開」となる。簡単にいうと、企業や自治体などが、仮想通貨を発行し販売することで資金調達をする仕組みのことだ。IPO(新規株式公開)と概念としては似ており、IPOの場合は株式を発行するのに対して、ICOの場合には仮想通貨を発行するという違いがある。
Mozilla の元 CEO Brendan Eich が立ち上げた「Brave」がわずか30秒で3500万ドル(約39.5億円)の調達を行ったという驚愕の数字が示すように、将来性や信頼が評価されれば、世界中から多額の資金を調達することもできるのだ。
現在、ICOについてはそれを取り締まる仕組みや団体のようなものはないため、文字通り玉石混交の状態といえる。「SCAM」と呼ばれる資金を集めて逃げ出すような詐欺ICOもあるので、ICOにお金を投資する場合にはきちんと調査をする必要があることは覚えておくとよいだろう。
地方自治体による電子通貨の実例について
昨年から、地方自治体で独自の通貨を発行しようとする動きが出てきている。その例をいくつか紹介していこう。
飛騨市「さるぼぼコイン」
飛騨市では、2017年12月から地域電子通貨「さるぼぼコイン」の実運用を開始している。さるぼぼコインでは、ひだしん(飛騨信用組合)の通帳やクレジットカードから日本円をチャージすることで、高山市・飛騨市・白川村の対象店舗で簡単に決済を行うことができる。対象店舗数については、12月の開始当初は100店舗だが、2018年3月には500店舗を目標に動いているとのこと。
メリットとしては、下記のような点がある。
- 2次元コードで簡単に決済が可能
- チャージ時にプレミアムポイントがついてくる
- キャッシュレスで便利
- ひだしん(飛騨信用組合)の通帳からチャージが可能(2018年2月対応予定)
- クレジットカードからチャージが可能(2018年下半期対応予定)
- アプリは多言語対応予定(2019年3月予定)
日本の地域特化の電子通貨としてはほぼ初めての事例だといえる。機能としては当たり前の機能をまずは揃えているという印象。ちなみに、さるぼぼコインはICOをしたわけではないので、今回の記事タイトルにある「地方自治体ICO」の例とは異なるが、地域トークンを発行した際の実用性という点で参考になる例だ。
裏側のシステムとしては、アイリッジ社の「MoneyEasy」を用いているとのこと。「MoneyEasy」については、「テンボスコイン(仮)」としてハウステンボスでの導入も決定するなど、今後独自通貨を発行する際のプラットフォームとして注目だ。
岡山県西粟倉村がICOを検討
こちらはまさに「地方自治体ICO」の話題。岡山県の西粟倉村がICOを検討していると発表した。
「西粟倉村とは?」となる方も多いだろう。決して有名な市町村とは言えないこの自治体がICOに乗り出したから非常に面白い。
上記のプレスリリースによると、西粟倉村は、人口1500人、面積の95%を森林が占める地方自治体である。その特性を活かして、今までも、「百年の森林構想」を軸とする林業六次化や、地域起業支援事業である「ローカルベンチャースクール」など、独自の活性化施策を行ってきているとのこと。
その西粟倉村がICOを検討しているという。西粟倉村という小さな村でも、その強みを打ち出してICOを検討しているというのは、世界的に見ても面白い例となるに違いない。
ここは具体的な中身が出てきたらまた記事化していきたい。
【2018年6月14日更新】 ついにICOの実施決定のニュースが出ていたので追記することにする。 prtimes.jp
発行するトークンは「Nishi Awakura Coin(NAC)」とのこと。NACで何ができるかは下記引用のとおり。
NAC保有者に投票権が付与され、西粟倉村で事業を立ち上げようとするローカルベンチャーに投票することができます。ローカルベンチャーはより魅力的な事業を考案し、NAC 保有者は地域づくりに参加することができます。ローカルベンチャーとNAC保有者による、挑戦と応援の仕組みを整備することで、仮想通貨が創る経済圏「トークンエコノミー」を循環させていく予定です。
投票権をもたせて、ローカルベンチャー支援に乗り出すというコンセプトは非常に面白い。1500人の街の内部から有望なローカルベンチャーが出てくるかというと可能性はそこまで高くないのではと思われるので、外部から西粟倉村を良い意味で活用して、面白い取り組みをするベンチャー起業家が出てくると理想的だろう。今後の動向も非常に楽しみだ。
エストニアが国家単位でのICOを検討
2018年7月、エストニアは国家単位でICOを検討していると打ち出した。「国がICO」ってどういうこっちゃ?という方もいるだろうが、これも企業や地方自治体と同じく、国としての将来性が評価されれば、そこに資金を投下する人がおり、エストニアはその資金を元に成長戦略を実行するという流れだ。
そもそも、エストニア自体面白い国で「世界最先端の電子国家」と言われている。実に行政サービスの99%がオンラインで完結するという。その他にも、国家として戦略的にIT人材育成を掲げており、実際に Skype を始め有望なスタートアップをいくつも輩出しているのだ。
エストニアも ICO の事例としては面白いだろう。
地方自治体ICOのメリット
さて、いくつか実例に触れてみたが、ここからは「地方自治体ICO」のメリットについて見ていこう。
- 世界中から資金調達することが可能
- 導入コストの低さ
- 国としても嬉しい(はず)
①世界中から資金調達することが可能
地方自治体ICOの1つ目のメリットにして最大のメリットは、国内のみならず海外からの資金調達が出来る点だ。
地方自治体が財源を確保する手段として、「ふるさと納税」が盛り上がってきているが、ふるさと納税が「日本国民の税収」という縛りがある中、ICOでは国の縛りも税収という縛りもない。いわば、「ふるさと納税のアップデート版」とも言われている。
日本の各地方自治体には、それぞれの魅力がある。伝統工芸であったり、観光であったり、地理的な何かであったり、各地方自治体で打ち出せるポイントは様々だ。その中には、海外の人々を惹き付ける要素もあるはずだ。そうであるならば、世界中から資金調達をできるというのは最大のメリットとなりうる。
例えば、分かりやすく沖縄であれば観光を押し出すことができるし、飛騨と同じ岐阜県の白川郷であればその世界遺産の魅力を押し出すこともできるだろう。
何を押し出すかは、その地方自治体のいわばビジョンだ。今後、ICOのような資金調達方法が表れてくると、よりビジョナリーな主張が求められてくるようになるかもしれない。
②導入コストの低さ
地方自治体ICOのメリットの2つ目は、導入コストの低さだ。仮想通貨の特徴の1つである。その背景にあるのは、ブロックチェーン技術だ。通常、通貨機能を作ろうとすると相当な工数もかかるし、さらにそこに高セキュリティを求めるとなると地方自治体単位で導入するのは現実的ではない。
そこを解決するのがブロックチェーンによるセキュリティを兼ね備えた仮想通貨。
アイリッジ社の「MoneyEasy」のようなシステムを使ってもいいし、今後簡易に通貨を発行できるサービスも増えてくるだろう。このあたりは別途まとめようと思う。
③国としても嬉しい(はず)
最後に、3つ目のメリットは、国家財政的に国も嬉しいのでは?という話。
「日本」という国家で考えた時に、このように地方が独自に資金を調達することは嬉しいはずだ。なぜなら、国の歳出の実に16%が地方交付税交付金に使われているからだ(2015年度)。
それも海外から集めることができたとしたら、国力強化につながる。各地方自治体がそれぞれの強みを打ち出すことで外貨を稼ぐことができたとしたら、それこそ最高にクールジャパンではないだろうか。
まとめ
ここまで、地方自治体ICOの可能性について述べてきた。
正直、まだまだこれからの取り組みではあるし、どうなっていくかは分からない。ただ、個人的には、非常に可能性のある分野であると思っている。理想としては、地方自治体がICOに乗り出し、それぞれの成長戦略を描き、地域が強くなることで日本全体として強くなるという画が浮かぶ。
何かこれらの動きを手助けできるサービスをできないか、考えてみようと思う。
参考図書
- 作者: 落合陽一
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2018/01/30
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
月刊事業構想 2018年3月号 [雑誌] (大企業×ベンチャー 共創の成否を分けるもの)
- 作者: 事業構想大学院大学出版部
- 出版社/メーカー: 株式会社日本ビジネス出版
- 発売日: 2018/02/01
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログを見る